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あんしんのもり

“とりあえず遺言”を書こう

お金の残し方

お子さんが成人している場合、遺言をとりあえず書いておくことをお勧めしています。

遺言がないと...

万一のことがおきた場合、遺言がないと、子どもの判断能力が十分でない場合は成年後見人をつけないといけなくなる可能性があります。実際、障害のある人が成年後見制度を利用するきっかけで最も多いのが相続です。

成年後見制度は一度利用するとやめることができないため、たとえ子どものためであっても親の意思で子どものお金を使えなくなることに加えて、2万円/月以上の後見人報酬を払い続けることになります。親が年老いているのであれば、そろそろ成年後見人に子どものお金や契約の管理を委ねる時期かもしれませんが、まだ若い時期に万一のことが起こると、残された配偶者と子どもは自由にお金を使えないことに長年ストレスを感じて暮らしていかないといけないかもしれません。

また、障害のある子どもとそのきょうだいがいる場合、障害のある子への遺産をきょうだいより手厚くしたいと思う場合や、逆にきょうだいへの遺産を手厚くして障害のある子の金銭面での面倒を見て欲しいと思う場合などは、遺言を残しておかないと思い通りに相続配分がされるとは限りません。

預貯金の相続手続きで成年後見が必要に

預貯金を相続する場合、遺言及び遺言執行者の有無、遺産分割協議書の有無によって銀行に提出する書類が変わってきます。

遺言がない場合は、通常相続人全員の印鑑証明の提出が求められます。印鑑を登録するには本人が役所に出向く必要があり、本人に意思能力がないと役所が判断すると印鑑を登録することができません。印鑑証明を提出できない理由を銀行に話すと、成年後見人をつけることを求められる可能性があります。

遺産分割協議で成年後見が必要に

相続人全員で遺産の分け方を話し合って決めることを遺産分割協議と言い、合意された内容を残す書面を遺産分割協議書と言います。

法定相続分と呼ばれる比率で各相続人に分割するのであれば、相続手続き上は遺産分割協議書がなくても済みますが、法定相続分とは異なる分割をする場合は遺産分割協議書が必要です。法定相続分は、配偶者がいる場合は遺産の1/2を配偶者が相続し、残りの1/2を子ども全員で均等に分割します。配偶者がいない場合は遺産を子ども全員で均等に分割するなどと定められています。

相続財産に不動産や株式等有価証券などがある場合は、遺産分割協議書がないと対象不動産・有価証券を相続人全員が法定相続分比率で共同所有することになり、当該資産を後々処分する際に大変面倒なことになります。遺産分割協議書で各財産を受け継ぐ人を特定しておくことで共同所有ではなく各相続人への名義変更が可能です。

法定相続分とは異なる分割をする場合や、不動産などの遺産がある場合は遺産分割協議をすることになりますが、遺産分割協議において遺産の分け方を話し合うだけの判断能力がない子どもが相続人にいる場合には成年後見人をつける必要が出てきます。

なお、遺産分割協議書には相続人全員の署名・捺印が必要です。法的には捺印は実印でなくてもいいのですが、各財産の相続手続きで通常実印を求められるため、遺産分割協議書に実印で捺印することが一般的です。

遺産分割協議の際、成年後見人は被後見人(障害のある子)の権利・財産を守るの仕事なので、被後見人への分割が法定相続分に満たない提案には通常合意しないでしょう。きょうだいに遺産を多く残して障害のある子の金銭的な面倒を見てもらいたいと思っていても、成年後見人がついているとそのような遺産分割は難しくなります。

遺言執行者を指定した遺言

相続のタイミングで成年後見人をつけたくないのであれば、遺言執行者を指定した遺言を書いておくことをお勧めします。

遺言で各財産を誰に相続させるかを明示するため遺産分割協議は不要となります。

遺言執行者

遺言執行者とは、遺言者(故人)の代わりに遺言を実行する人のことで、例えば銀行で、故人の預金を相続人に送金するなどの行為を行います。

遺言書はあるものの遺言執行者が指定されていない場合は、金融機関等での相続手続きの際に受遺者(遺産を受け取る人)の印鑑証明を求められることとなり、印鑑登録できない障害のある子が受遺者であると成年後見人を求められる可能性があります。

一方、遺言執行者が指定されていると、受遺者の印鑑証明は不要で、遺言執行者の印鑑証明のみが求められる金融機関等が多くあります。ただし、相続手続きに必要な書類は銀行・証券会社によって違い、遺言執行者が指定されている遺言書があっても、受遺者の印鑑証明が必要な金融機関も少なからずあります。受遺者の印鑑証明提出を避けたいのであれば、利用している金融機関の相続手続きに必要な書類を調べておく必要があります。

遺言執行者は、「●●を遺言執行者に指定する」と遺言に書いておくことで指定でき、未成年者と破産者でなければ誰でもなることができ、配偶者や子など相続人がなることもできます。家族や親族に手間をかけさせたくないのであれば、料金はかかりますが弁護士などの専門家へ依頼するか、遺言書の作成・保管などとセットで遺言執行者を引き受けてくれる信託銀行のサービスなどを利用できます。

相続人が未成年の場合

子どもが未成年のあいだに親御さんにもしものことが起きた場合は、相続手続きや遺産分割協議は代理人が行うことになります。

一般的な手続きでは親権を持つ親が代理人になることが多いですが、遺産分割協議については、親(例えば父が亡くなった場合の母)も相続人となるため、利益相反の観点から代理人になることはできません。そのような場合はおじいちゃん・おばあちゃんなどを特別代理人にするよう裁判所に申し立てます。

財産が少ないので遺言はいらないと思ってます。

預貯金などがあると金額にかかわらず相続手続きが必要になります。財産の多い・少ないに関係なく遺言を書いておいた方がいいでしょう。

“とりあえず遺言”のポイント

遺言は何度でも書き直せるのでまずは“とりあえず遺言”で大丈夫です。

法務局で遺言を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」を使うことで、3,900円の費用で気軽に遺言書を作成できます。

遺言には書き方の決まりがあり、決まり通りに書かれていないと無効になってしまいます。書き方の決まりは法務省の「自筆証書遺言書保管制度」ホームページ等で見ることができます。自筆証書遺言書保管制度 (moj.go.jp)

決まりさえ守れば自分で遺言を書くことはさほど難しくありませんが、財産関係が複雑な場合や、相続争いが不安な場合などは、弁護士・司法書士などの専門家に相談のうえ、自筆証書遺言ではなく、証人立ち合いのもと公証人が作成する公正証書遺言がいいでしょう。手間と費用はかかりますが、遺言に不満のある相続人が裁判をおこした場合に遺言を無効とすることが難しくなります。

  • 遺言書には遺言執行者を指定しておくことを忘れないようにしましょう。遺言執行者が指定されていないと遺言があっても成年後見人等がつくことになってしまいます。
  • 遺言書に添付する財産目録作成は、自分の財産状況を整理できるので相続の配分を考えるうえでも有用です。また、残された家族に財産の在り処を示すのにも役立ちます。
  • 相続時に成年後見人をつけたくないのであれば、夫婦二人ともが遺言を書いておきましょう。

遺言を考える上で気をつけるべきポイント

遺留分に注意

きょうだい間等での遺産配分を均等にしたくない場合など、法定相続分とは異なる遺産配分とする際は「遺留分」に注意する必要があります。

「遺留分」とは、各法定相続人に対して保障される最低限の遺産の取り分のことです。例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者と子どもの遺留分は各人の法定相続分の1/2となりますので、それぞれの遺留分は、配偶者が相続財産の1/4、各子どもが相続財産の1/8となります。

遺留分には非常に強い効力があります。何等かの理由で遺留分を下回る遺産配分としたい場合は対策を考える必要があります。

障害のある子の相続をゼロにしない

相続税の節税効果が大きい障害者控除を活用するには、障害のある子が相続する必要があります。

障害のある子ども本人が使いきれない障害者控除額は、他の相続人が使うことができます。

不動産の残し方は状況に応じて考える

  • 判断能力が十分でない子どもとの共同名義は避けた方がいいでしょう。共同名義にすると、成年後見人等が関与して家族が思うような処分ができない可能性があります。
  • 障害のある子に残す場合は、誰が管理のサポートをするかも考えておく必要があります。
  • 現金化やグループホーム事業者への譲渡も選択肢になり得ます。

上場株式・投資信託を残す場合

子どもの証券口座を開設しておくことに加えて、遺言で遺言執行者を指定しておくことで、成年後見人をつけることなく上場株式・投資信託の名義変更が可能です。

  • 相続人への名義変更手続き時に、相続人(子どもなど)の印鑑証明が不要な証券会社があります。(証券会社により違います。)
  • 子どもが未成年のうちに未成年証券口座を親権で作っておくと、成人用口座に自動的に移行します。

相続時に成年後見人をつけることを回避できたとしても、上場株式・投資信託を売却・解約する時には成年後見人などの支援が必要になるかもしれません。将来の管理についても考えておきましょう。

相続税を納付するための金銭を考える

一定額以上の相続には財産価額に応じて相続税がかかります。

不動産や株式・投資信託などの非現金資産も課税対象ですが、相続税は現金で支払うのが基本です。非現金資産だけを相続した人は納税のために現金を捻出しないといけないかもしれません。家族が相続税の支払いで困らないよう遺産の配分を決めると安心です。

相続税の計算は複雑です。まずは早見表で自分の遺産に相続税がかかりそうかを見てみるといいでしょう。なお、自宅不動産の評価額は特例で大幅に小さくなる可能性があります。

相続税早見表

<相続人に配偶者がいる場合>

<相続人が子どものみの場合>

まとめ

  • 万一のことはいつ起こるかわかりません。”とりあえず”でいいので遺言を夫婦共に書いておきましょう。
  • 遺言で遺言執行者を指定しておきましょう。相続時に成年後見人をつけないことが可能です。(金融機関等によります)
  • 遺産配分では遺留分に注意しましょう。
  • 障害のある子どもの遺産をゼロにすると遺留分を侵害するだけでなく、相続税の障害者控除を受けられません。
  • 不動産や株式・投資信託を残す場合は、将来の管理も含めて残し方を考えましょう。
  • 相続税がかかりそうな財産額の場合は、相続した家族が相続税納付で困らないように、預貯金の相続配分を考えておくと安心です。