自分ひとりで物事を決めることが心配な障害のある子にとって、成年後見人は非常に頼りになる存在です。一方で、障害のある子本人を十分に理解せずに後見業務を行う後見人の噂などを聞くことがあり、成年後見制度の利用をためらっている親御さんが多いのが現状です。
ここでは、いつかは頼らざるを得ない成年後見人を選ぶ際の重要ポイントについて考えていきたいと思います。
法定後見においては、成年後見人は裁判所が選任しますで、自分で選ぶことはできません。ただ、候補者を立てることはできますので、ここでは候補者を選ぶ際のポイントと考えて下さい。
成年後見人の役割
成年後見人を選ぶ際に注意すべきポイントを考える前に、後見人の役割について整理してみましょう。
成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などで、ひとりで決めることに不安や心配のある人が、お金の出し入れや、いろいろな契約・手続などをするときに、本人に代わって後見人が行う制度です。
後見業務は、預貯金や不動産などの財産を管理する財産管理と、生活や療養等に関する事務手続き・契約等を行う身上保護に分けられます。
成年後見人は、本人に代わって物事を決めることができますが、本人が生活する上での援助を全て行ってくれるわけではありません。例えば家事や買い物の代行、入浴・トイレ・食事などのサポート、送迎や移動の手伝いなど、直接的な支援は行いません。また、身元引受人や保証人にはなりません。
親は財産管理や身上保護を子どもに代わって行い、さらに日常生活の直接的な支援など、障害のある子にとって必要な支援を全て行うことができますが、成年後見人は必要な支援の一部しか行わないという点を認識しておくことが後見人を選ぶ上で重要になってきます。つまり、後見人だけで全ての支援が完結しないので、他の支援者たちと連携して初めて支援全体が成立することになるのです。
”支援の輪”の一員としての成年後見人
「支援の輪」とは、子どもの苦手なところを補って手助けをしてくれる人たち、つまり支援者たちのことで、”支援の輪”に囲まれていることで安心して暮すことができます。
日中活動場所のスタッフ、グループホームのスタッフ、計画相談事業所の相談員、余暇活動の場の人々、職場の人々、近所の人々、きょうだい、親戚、かかりつけの医者など、様々な支援者に囲まれていると思いますが、その中に成年後見人が加わることで”支援の輪”がさらに強力なものとなり得ます。
支援の輪に求められる”権利擁護”とは?
支援者に求められることとして”権利擁護”という言葉がよく使われます。難しい言葉ですが、簡単に言うと「その人らしい暮らしが安心・安全にできるようにサポートする」ということだと思います。
”その人らしい暮らし”ができるように支援者たちは”意思決定支援”を行います。意思決定支援と聞くと難しく感じますが、今日はどの服を着たいか、どのおかずから食べたいか、いつ風呂に入りたいかなど簡単なことを確認することも意思決定支援の一つです。障害があり意思表示がスムーズにできない場合、支援者たちが本人の意思を確認しながら、時には本人の意思を推測しながら意思決定支援を行っています。成年後見人は、何にいくらお金を使うべきか、どこに住むべきか、どこのどのような障害福祉サービスを利用すべきか、など財産管理と身上保護に関する意思決定支援を行うことになります。
意思決定支援とは、”その人らしい暮らし”ができるようにサポートすることですので、本人の全体像をよく理解していることが大前提になります。
成年後見人に求められること
意思決定を支援する成年後見人は、障害のある本人の全体像をよく理解する必要があります。ほとんど本人に会いに来ない成年後見人は本人理解という点では論外ですが、定期的に会いに来る後見人であっても、本人だけに会っているのでは本人の全体像を理解するには不十分かもしれません。全体像を理解するためには、他の支援者や家族などと一緒になり様々な視点・立場で本人を理解しようとすることが必要でしょう。つまり、支援の輪の一員として、他の支援者たちと連携しながら後見業務を行うことが後見人に求められると言えます。
成年後見人の役割が、財産管理や契約・手続きごとなど頭で考える部分のサポートだとすると、日常生活を直接支援する他の支援者たちは本人の手足など体の部分のサポートと言えるかもしれません。頭をサポートする後見人と、体をサポートする他の支援者がバラバラに動いたのではまともなサポートにならないことは容易に想像できます。その意味でも成年後見人は他の支援者たちと連携する必要があります。
支援者たちとの連携とは?
支援者たちとの連携に決まった形はありませんが、大事なのは、成年後見人が一人でサポートしようとしないことです。日中活動場所・就職先やグループホームなどに足を運び、そこでの支援者と情報交換することは重要な支援の連携になります。
日中活動やグループホームなど障害福祉サービスを利用している場合は、計画相談支援事業所が中心となりサービス利用状況の振り返りを関係者で定期的に行うモニタリングと呼ばれる場があります。そこに成年後見人が参加することは、支援者連携の観点からとても有意義と言えるでしょう。
家族との情報交換も連携の一つです。本人のことを一番理解しているのは家族にほかなりません。後見人は家族から話を聞く義務もありませんし、家族に後見業務を報告する義務もありません。また、家族から本人の預金残高を聞かれても答える義務はありません。しかしながら、本人のことを一番理解していて、本人のことを一番気にかけている家族を軽視する後見人を信頼することはできないでしょう。
こんな成年後見人は避けたい
後見推進センター等の中核機関に実際に上がって来た苦情をいくつか紹介したいと思います。
- 財産管理が後見業務であり、身上保護は仕事ではないと言われた
- 後見人となってから数年経つが一度しか本人に会いに来ない
- 本人に会わず、支援者との連携も行わない
- 忙しくて訪問に行けないと言われた
- エアコンは贅沢なので買えないと言われた
上記にもたくさんあるように、「本人等に会いに来ない」との不満は常にあがって来ます。支払いなど事務的な財産管理のみを行い、本人を理解した上での意思決定支援や身上保護をおろそかにしている後見人が一定数いると言うことでしょう。
エアコン設置を拒否した件については、猛暑で命にかかわることにもなるため、支援者が後見人を説得して最終的に設置できたとのことです。浪費を防いで財産を守ることは後見人の重要な責務ですが、エアコンを贅沢と言うのはいつの時代のことかと思ってしまいますし、猛暑の中でエアコンが必要なことは支援者との連携ができていれば容易に把握できていたと思われます。
このように、本人の全体像を理解しようとせず、財産管理だけ事務的に行う後見人は避けたいものです。
成年後見人候補を選ぶときの重要ポイント
誰に後見人になってもらいたいかわからない場合、中核機関や弁護士・司法書士・社会福祉士・行政書士などの専門家団体等から候補者を紹介してもらうことになると思います。その場合、紹介されたまま候補者とするのではなく、必ず面談し、人柄だけでなく、障害のある子本人の全体像を理解しようとする人か、支援者の輪の一員として他の支援者たちと連携してくれる人かを見極めることが重要です。
候補者の方に、今までの後見業務の実績ややり方、後見人に就任した場合に本人・家族・支援者たちに会いに来る頻度や連携の方法などを具体的に質問してみるのがいいかもしれません。
また、成年後見人を支援の輪に迎え入れるにあたって、後見人とどのように連携をすべきかを現状の支援者たちと議論しておき、後見人候補者との面談でその点について確認するのも効果的でしょう。
成年後見制度の注意点の一つとして、一度選任された後見人は気に入らないとの理由で変えることはできないことがあげられます。実際には、まったく本人に会いに来ないなど客観的に見て後見業務をまともに行っていない場合は、中核機関等にクレームをあげたり、後見人本人にクレームを伝えることで、結果として後見人自ら辞任することはあります。ただ、必ず辞任するとは限りませんし、辞めさせることはできませんので、支援の輪の一員として他の支援者たちと連携してくれる人を候補とすることが重要になります。