自分の収入では生活できない、親族にも頼れない場合、最後のセーフティネットである生活保護制度により健康で文化的な最低限度の生活が保障されます。
概要
- 世帯の収入が最低生活費を下回る場合、保護費により最低生活費を維持できるようにします。収入がある場合は、最低生活費から収入を差し引いた金額が保護費として支給されます。
- 最低生活費は住む地域及び世帯の人数・年齢により細かく定められており定期的に改訂されます。(金額例については後述)
生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。
厚生労働省
生活保護の要件
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。
厚生労働省のホームページ
少し難しいですね。用語を一つずつかみ砕いて見ていきましょう。
資産等の活用
保護を受ける前に換金できるもの(資産等)は全て換金し、預貯金が最低生活費の1か月未満であることが目安です。
- 住んでいる自宅を所有している場合は豪華な家でなければ必ずしも処分を求められるわけではありません。豪華な家の定義は個々の事情によりますが処分価値2千万円程度が一つの目安となっているようです。
- 65歳になると自宅を担保に生活資金を借り入れる「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」(リバースモーゲージ)に切り替えられることがあります。
能力、その他あらゆるものの活用
障害基礎年金の受給対象者であれば、まず年金を申請する必要があります。その他の手当等も申請し、障害福祉サービス等も活用した上で、まだ生活費が不足する場合に保護費が支給されます。
働くことが可能な人はその能力に応じて働くことが求められます。
扶養義務者の扶養
- 扶養義務者とは、配偶者、親、成人した子・孫、きょうだいに加えて、特別な場合に3親等の親族(叔父、叔母)が含まれます。
- 生活保護を申請すると、親、祖父母、きょうだい、成人した子・孫などの扶養義務者に扶養の可否を問う「扶養照会」と呼ばれる手紙が届きます。
- 成人した子に対して親等が持つ義務は”扶養扶助義務”と呼ばれ、自分に余裕がある範囲で援助すればいいというものです。(未成年の子には”生活保持義務”があり、自分と同じ程度の生活を保障する義務です)
- “余裕”について明確なルールはなく、「扶養照会」に回答する際、収入・職業などを記入せずに回答することや、回答自体しないことも可能です。そのような場合でも申請者に不利益は生じないと言われています。
- 扶養義務者が援助しても収入が最低生活費に満たない場合は、援助を含めた収入合計と最低生活費の差額が保護費として支給されます。言い換えると、援助した分だけ保護費が減ることになります。
世帯単位
- 生活保護は世帯単位で認定されます。生活保護では、同じ生活費で生活している人を世帯として認識し、必ずしも住民票の世帯とは一致しません。
- 子どもの生活保護を目的として、同居している子どもの世帯を親から分離することは原則認められません。
保護費の金額
- 最低生活費>収入の場合に、最低生活費と収入の差額が保護費として支給されます。収入には就労による収入、年金、親族による援助などが含まれます。
- 最低生活費は地域、世帯人数、年齢などにより規定されています。
- 定常的な基本生活費に加えて、教育、医療、介護、出産、生業、葬祭のための扶助が必要に応じて支給されます。障害加算がある場合があります。
20~40歳単身、大都市部の例 (一月あたり)
- 最低生活費:約15万6千円(障害年金1級の障害加算含む)
- (生活扶助基準額76,240円+家賃扶助上限53,700円 +障害加算26,810円)
- 収入:約8万9千円 (障害年金1級+年金支援給付金)
- 支給される保護費:差額約6万7千円(家賃が家賃扶助上限の場合)
障害者加算
障害年金1級、2級を受給している場合、一月あたり約1万5千円~2万7千円程度の障害者加算が等級・年齢に応じて支給されます。
収入認定
支給される保護費は、最低生活費から収入を差し引いて決まりますが、その際に収入としてカウントすることを収入認定と呼んでいます。年金、給与・労働収入、親族からの援助などほとんどの収入は収入認定されます。また、借金をした場合も収入認定され保護費が減ることとなります。
なお、障害者扶養共済制度(しょうがい共済)の年金受取は収入認定されません。
就労収入の基礎控除
就労収入が全額収入認定されてしまうと、働いた分保護費が減るので働く気をなくしてしまいます。そのため、就労収入については、収入に応じて基礎控除と呼ばれる額を収入認定から除外するようになっています。
- 就労収入15,199円までは全額控除(世帯での就労が1人の場合)
- 就労収入15,200円~18,999円までは15,200円控除
- 19,000円以上は収入4,000円増える毎に控除400円増加
- (例:収入51,000円では控除額18,800円)
例えば工賃が15,199円以下の場合は収入認定から全額除外されるため、保護費に加えて工賃が全額手元に残ることになります。
遺産などを相続した場合
生活保護支給中に相続などで大きな財産を得た場合は生活保護が停止あるいは廃止され、しばらくの間その財産で生活することになります。
相続財産を得た場合は、実際に財産を得た日以降の生活保護が停止・廃止されるだけでなく、被相続人が亡くなった日以降の保護費を返還する必要があります。
まとめ
- セーフティネットである生活保護により健康で文化的な最低限度の生活が保障されます。子どもにお金を残さなくても大丈夫と言われる理由の一つです。
- 生活保護を申請すると、親・きょうだいなどに扶養の可否が質問されますが、余裕がある範囲で援助すればよく、無理する必要はありません。
- 親なきあとに生活保護を頼りにするつもりであれば、申請をサポートしてくれる信頼できる支援の輪を作っておくことが大切です。また、収入認定されない障害者扶養共済制度(しょうがい共済)に加入しておくことも選択肢の一つです。