子どもが成人してからの収入と支出はいくらくらいになるのでしょうか?
赤字にならないか心配です。
まずは収入と支出の平均額や、障害基礎年金などの公的なサポートを参考に見てみましょう。さらに、子どもの老後資金についても少し考えてみましょう。
次に3つのモデルケースを通してお金の収支のイメージをつかみましょう。気を付けるべきポイントがわかります。
収入
就労タイプ別の平均収入や、公的な経済サポート等の金額についてイメージをつかみましょう。
就労による平均収入(月額)
- 一般雇用:障害者固有のデータなし(正社員32.3万円、非正規21.7万円)
- 障害者雇用:11.7万円(知的障害)
- 特例子会社:12.5~16.5万円が最多ゾーン(全障害平均)
- 就労継続支援A型:8.2万円(最多は6万円程度)
- 就労継続支援B型:1.6万円(最多は1万円程度)
- 生活介護・地域活動支援センター:0~3千円程度
障害基礎年金(令和5年度年額)(受給要件あり)
- 1級:993,750円/年
- 2級:795,000円/年
障害年金生活者支援給付金(令和5年度月額)(受給要件あり)
- 障害年金1級: 6,425円/月
- 障害年金2級: 5,140円/月
公的な手当(受給要件あり)
- 特別障害者手当:月額:27,980円(令和5年度)
- 自治体独自の手当:
- 東京都重度心身障害者手当:月額6万円
- 神奈川県在宅重度障害者等手当:年額6万円 など、自治体による
障害者扶養共済制度(しょうがい共済)
- 障害のある人を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、保護者が亡くなった時などに、障害のある人に対して一定額の年金を一生涯支給する公的制度です。
- 支給額:毎月2万円/口(最大2口まで)
- 掛金月額:9,300~23,300円/口(加入時の保護者の年齢による)
生活保護(要件あり)
- 最低生活費>収入の場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。収入には就労による収入、年金(障害基礎年金を含む)、親族による援助などが含まれます。
- 最低生活費は住んでいる地域、年齢、世帯人数などで決められます。
- 最も高い地域の最低生活費例:20~40歳の単身:約13万円(医療費は別に実費支給)
支出
支出は住居と趣味によって大きく変わります。住居タイプ別の生活費と趣味のお金の考え方についてみてみましょう。
住居タイプ別の生活費平均
基本的な生活費は、障害者支援施設入所 < 親と同居 < グループホーム < 一人暮らし の順で大きくなる傾向があります。もちろんのことながら、金額だけで住むところを決めるべきではありません。
趣味や余暇のお金
趣味や余暇のお金は、その人の興味や行動範囲、お金に対する価値観などにより大きく違ってきますので、将来のお金を考える際に平均値はあまり役に立たないかもしれません。収入面も考慮してその人にあった支出額を想定する必要があります。
グループホーム利用者のアンケート結果によると、個人的な生活費・小遣いの平均は約3万円4千円ですが、2万円未満の人が全体の30%である一方、5万円以上の人が21%もいることから、ばらつきが大きいことがわかります。
社会保険料
健康保険や国民年金などの社会保険料は障害があっても支払う必要があるのでしょうか?
健康保険料
- 障害を理由とした免除・減額はなく、就労先で健康保険に加入していない場合は、親などの健康保険の扶養に入るか、国民健康保険に加入する必要があります。
- 国民健康保険料は自治体によって違いますが収入等に応じて決められます。
就労先で健康保険に入れない場合は、親の扶養に入れるのが一番いいですね。
親の扶養に入れない場合は国民健康保険に入らないといけないのですが、収入が多くない場合の保険料はさほど高額にはならないでしょう。
年金保険料
障害基礎年金を受給している場合
- 障害基礎年金を受給していると国民年金保険料は免除されます。
- 免除はされますが、65歳から受け取ることができる老齢基礎年金は半額になります。
- 障害基礎年金の受給に年齢制限はありませんので、障害基礎年金を一生涯受給できるのであれば問題ありませんが、程度が変わり得る障害の場合は、障害基礎年金が途中で更新されない可能性がありますので注意が必要です。将来が心配であれば国民年金保険料を払うことで、将来の老齢基礎年金を満額とすることができます。
- 障害基礎年金と老齢基礎年金を同時に両方受給することはできません。
- 免除はされますが、65歳から受け取ることができる老齢基礎年金は半額になります。
障害基礎年金を受給していない場合
- 101人以上の企業等で週20時間以上働く場合は勤務先で厚生年金保険と健康保険に加入することになります。
- 就労先で厚生年金に加入できない場合は国民年金に加入します。
- 国民年金保険料:16,520円(令和5年度)
子どもの老後資金
子どもの老後に介護費用がかかるかもしれません。障害の原因によっては老化が早かったり、寿命が平均より短かったりする場合がありますので、その人に応じた老後資金を考えたほうがいいでしょう。
子どもの老後資金を考える必要があるの?
- 知的障害や発達障害のある人は身体機能の低下が早く、急速に進む傾向があるとの研究があります。
- 障害者グループホームに年齢制限はありませんが、身体機能や認知機能が大きく低下した場合、今まで住んでいたグループホームでは対応することができなくなり、特別養護老人ホームなどの高齢者施設へ移るケースが散見され、多くの場合自己負担額が上がります。
- 自宅暮らしで在宅介護保険サービスを利用し始めると原則1割負担となります。収入が少ない場合は月の上限が設けられています。
- 在宅での介護保険サービスでは不十分になると、高齢者施設や障害者グループホームなどへの入所を検討する必要が出てきます。
老後介護にかかる費用
- 特別養護老人ホーム:月10~15万円
- 収入が障害基礎年金程度で、預貯金額が550万円以下の場合は、介護保険給付により月6万円~11万円程度に軽減
- 民間の介護付き老人ホーム:月15~30万円 +入居時 0~数千万円
- 在宅での介護保険サービス自己負担:収入が少ない場合の上限 15,000円/月
年金受給額の将来
少子高齢化の日本においては公的年金の将来が心配との声が多く聞かれます。障害基礎年金を今の水準のまま将来も受給できる想定で大丈夫でしょうか?
受給水準は下がっていく可能性が高いと見られています。
国が公的年金の将来を検討するために、5年毎に年金の財政検証と呼ばれるチェックを行っています。直近に行われた2019年の検証で、経済成長と労働参加が力強く進まない場合、2040年ごろには老齢基礎年金が現在のおよそ9割程度の水準(物価を現在に換算した実質額)に減少するとのシミュレーション結果となっています。何も手を打たない場合、2050年代には8割以下に減少するとしています。また、シミュレーション結果よりさらに低下する可能性もあるでしょう。
これらの検証は高齢世帯をモデルとした老齢年金の検証ですが、老齢基礎年金と障害基礎年金2級の金額が現在同額であることから、老齢基礎年金が下がれば障害基礎年金も下がっておかしくはないと思われます。
ではどうすればいいでしょう?
将来のお金を考えるときには、障害基礎年金が徐々に1割程度下がると想定しておいた方が安心でしょう。
老齢年金であれば受給開始を遅らせる(繰り下げる)ことで受給額を増やすことができますが、障害年金は開始を遅らせても増やすことは出来ません。
モデルケース
平均的な収入と支出を想定した3つのモデルケースで成人後のお金の過不足を見てみます。3ケースとも以下の想定は同じです。
- 29歳まで両親と同居
- 30歳で実家を出る
- 40歳から成年後見制度の利用開始
- 65歳から介護が必要となり特別養護老人ホームに入る
- 寿命は87歳(女性の平均寿命)
ケース1
軽度の知的障害のAさん
障害基礎年金2級をもらいながら障害者雇用で働き、アパートで独り暮らしをしています。
趣味や余暇を積極的に楽しんで生活しています。
ポイント
- 厚生年金に加入しているため65歳から老齢厚生年金がもらえます。
- 親との同居期間に1千万円以上の預金が積み上がったため、成年後見を始めて最初の9年間は後見人報酬が月額3万円と高額になります。9年後以降は預金残高が1千万円を下回るため後見人報酬が2万円になります。
- 成人後トータルでのお金の収支はほぼトントンです。
考慮できる点
- 同居時の家に入れるお金を増やすして預金残高を小さくすることで、成年後見人報酬を下げることが期待できます。その分を、遺産・信託・しょうがい共済など預金以外で残すことが可能です。
- このケースでは、成年後見人報酬を最初から2万円にすることで約100万円の節約となり、万一に備えた貯えを作ることが可能です。
ケース2
知的障害のBさん
障害基礎年金2級をもらいながら就労継続支援B型で働き、グループホームで暮らしています。
CDやDVDを買ったり、余暇活動で外出・旅行を楽しんでいます。
ポイント
- 父がしょうがい共済に加入していたため、父が死亡した45歳以降は毎月2万円の収入があります。
- 成年後見制度利用支援事業により成年後見報酬は全額自治体に助成されます。収入と預金残高が自治体が定める規定以下であったため助成が受けられます。
- 成人後トータルでのお金の収支はやや余裕があり、不測の事態に備えられそうです。
考慮できる点
- しょうがい共済で累計約1千万の収入となっています。言い換えると、父がしょうがい共済に加入していなかった場合は850万円ほど不足していたことになります。
- このケースでは介護のために老人ホームで暮らす期間を23年としていますが、平均的な介護期間は4~10年が多いことを考えると、実際のケースでは老人ホームで過ごす期間はもっと短いため不足額も小さくなると考えられます。
ケース3
重度知的障害のCさん
障害基礎年金1級をもらい、生活介護事業所で日中活動をして、グループホームで暮らしています。
工賃はありません。
お小遣いは大好きなおやつやジュース、余暇活動やたまの旅行に使います。
ポイント
- 収入が年金のみのため、成年後見人の報酬を支払うと赤字になります。預金残高が大きいため後見人報酬の助成が得られるのは最後の12年間のみです。
- 成人後トータル収支は赤字が見込まれます。
考慮できる点
- 同居時に家に入れるお金を増やすことで預金残高を減らし、成年後見報酬に助成が得られる可能性があります。このケースの場合、最初から助成が得られて報酬負担がゼロだったとすると800万円以上の節約となります。
- 家に入れるお金を増やした分は、しょうがい共済に加入するか、成年後見報酬の助成を受けられる程度に遺産を残すことなどの検討が可能です。
- お金が不足したときに、親が残していない場合は生活保護が考えられます。生活保護を含めた対策を検討・実行してくれる「支援の輪」ができていると安心です。
まとめ
- 残すべきお金の規模感をつかむ
- モデルケースを参考にして、自身の子どもの将来を想定しながら数字をあてはめてみることで、お金の過不足のイメージができると思います。
- ここで紹介した収入や支出はあくまでも平均であり、個人差が大きいことには注意が必要です。
- 子どもが小さいうちは平均値でイメージをつかむしかありませんが、成人してからは実際の収入や支出の金額を使って収支を試算し直した方がいいでしょう。
- 3つのケースとも介護期間をかなり長くしたコンサバな想定ですので、実際はもう少しお金に余裕がでる場合が多いでしょう。一方で、年金の将来は不確実です。また就労していても途中で休止期間がある場合や、65歳まで働かないこともあり得ますので、どこかで保守的な想定をしておいた方がいいでしょう。
- モデルケースを参考にして、自身の子どもの将来を想定しながら数字をあてはめてみることで、お金の過不足のイメージができると思います。
- 親と同居中のお金のコントロール
- 親との同居は将来に向けてのお金を貯えることができる期間です。ただ、預金が必要以上に多くなってしまうことがありがちで、浪費や詐欺被害につながったり、成年後見人報酬が高額になるなどの良くない結果を招きかねません。家に入れるお金を調節するなどして預金残高をうまくコントロールしましょう。
- 無理してお金を残すより楽しい思い出を
- お金の不足が見込まれる場合でも、セーフティーネットの生活保護がありますので、無理をしてお金を残すことばかり考えるよりも、家族での思い出がたくさん残るように楽しく暮らすことが大切と考えています。